「百万円と苦虫女」
百万円と苦虫女
監督・脚本: タナダユキ
出演: 蒼井優、森山未來、ピエール瀧、笹野高史
製作年度: 2008年
上映時間: 121分

シネセゾン渋谷にて鑑賞。

就職浪人中の鈴子(蒼井優)は、ある事件から前科がつき家に居づらくなり、
1か所で100万円貯まったら次の場所に引っ越すという根無し草のような生活を始める。
アンチ自分探しの青春ロードムービーというのか。
人とのコミュニケーションの取り方について考え、丹念に描いている。
ゆるいけど、ダレない、良い空気の映画だった。

とりあえずヒロインの蒼井優が良い。
「フラガール」もそうでしたが、監督に惚れ込まれていることが良く分かる。
森山未来も良かった。ナイーブな演技でリアルな感触を残す。
ただ、魅力的ではあるが、設定にやや難有り。
ヒロインが百万円貯めないでほしいからお金借りるって、ちょっと安易すぎる。
動機付けとしては読めてしまう。そのわりに説得力に欠ける。
引き留めたいくせに、問い詰められた時、なんで言わないのか。
しかも他の人に言わないでと言われてたのに後輩に百万円のこと喋ってるし。

東京都内の実家から、海へ、山へ、地方都市へと住処を変えてゆくヒロイン。
最初は消極的な現実逃避としての旅立ちだったが、
移動して、違う空気や違う共同体に触れるという物理的変化が
ヒロインに働きかけていく感じが、とても健やかで面白い。
どこへ行っても自分で縫ったカーテンを窓に揺らしていて、
でも他には家財道具など全くない、その身ひとつの潔さ。
なにも無くても、働くことも、暮らすこともできるし、恋もできる。
それが自分というもので、ヒロインが言うように
「自分探しなんてしたくない、自分は嫌でもここにいる」。

それと、家を出たヒロインと家に残った弟、それぞれが表裏となるように
成長していく過程は良い見せ方だと思った。
離れていても繋がっているものはある。
どんなに住む場所を変えても断ち切れないものの存在。

あるいは、出て行くときに、持って行けないものもある。
「人は出会うために別れるのだと思います」という物語終盤でのヒロインの悟りは
そのままラストシーンに繋がっている。
その諦観というか、楽観というか、不思議な達観が、すとんと落ちるラストはなかなかのもの。

かき氷のシーンがあるところもニクイ。
蒼井優とかき氷については下記参照。

蒼井優 PHOTO BOOK 『回転テーブルはむつかしい。』 (ダ・ヴィンチブックス)蒼井優 PHOTO BOOK 『回転テーブルはむつかしい。』 (ダ・ヴィンチブックス)
(2008/03/20)
蒼井優/アイビー・チェン

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2008-08-04 08:19 | 映画 | Comment(0) | Trackback(0)
「ぐるりのこと。」
「ぐるりのこと。

監督: 橋口亮輔
上映時間: 140分
製作年度: 2008年
出演:木村多江、リリー・フランキー、倍賞美津子


『ハッシュ!』の橋口亮輔監督による人間ドラマ。
1990年代から今世紀初頭に起きたさまざまな社会的事件を背景に、
困難に直面しながらも一緒に乗り越えてゆく夫婦の10年に渡る軌跡を描く。

じんわり、しみじみと良い映画だった。
もう強い情熱や欲望は無い段階の夫婦。
ちょっとやそっとでは誤魔化せなくて、そこに開き直っているようなところもあるけれど、
それは愛が無くなったのではなく、愛の形が変わっただけで、
必要な時には、当たり前のように向き合って手を差し伸べあう。
すぐにはうまくいかなくても、いつかうまくいく日まで…
そういう「当たり前」を静かに見せる映画だった。

夫婦の物語に異常犯罪の裁判が伴走するが、これは時代をリアルに描き出したり
夫婦の共有した時間を計るといった効果のためだけではない。
幼女連続誘拐殺人、小学校での児童殺傷、オウム…
これらの犯罪者のコミュニケーション能力の無さや思考停止ぶりに照らして
人が人と関わりながら生きていく上で大切なものが見えてくる。

夫婦の物語ではあるが、親子関係(ヒロインと母親・父親)や、
ひとりの人間としての生き方(充実した絵画制作を始めるヒロイン)まで
カバーして、自分の周りの人ぜんたいを、もう一度きちんと抱き締めたいような気持ちにさせる。
つつましい生活でも、相手の寝顔を見つめたり、お風呂に一緒に入ったり、一緒に植物を育てたり、
そういう些細な日常が続けていくこと、途切れても修復することが、何にも代え難い幸せなのだと、
しみじみと分かる。

今、読んでいるフォースターの『眺めのいい部屋』。
その一節が共鳴する。
「『人生とは、聴衆の前でヴァイオリンを弾くようなものだ。そして君は弾きながらヴァイオリンのことを学ばなくてはならない。』…人は生活をしながら、自分の持っている力の使い方を見つけなければならない、とくに愛の使い方を。」 
(E.M.フォースター『眺めのいい部屋』第十九章より)
2008-06-24 08:44 | 映画 | Comment(0) | Trackback(0)
「アフタースクール」
アフタースクール
製作年度: 2008年
製作国: 日本
上映時間: 102分
監督・脚本: 内田けんじ
出演:大泉洋、佐々木蔵之介、堺雅人、田畑智子、常盤貴子他

新宿ジョイシネマにて鑑賞。


母校の中学で働く教師、神野(大泉洋)のもとに、かつての同級生だと名乗る
探偵(佐々木蔵之介)が訪ねてくる。
探偵は、神野の幼なじみで今は一流企業に勤める木村(堺雅人)の行方を追っていた。
心ならずも木村探しに巻き込まれるうちに神野の知らない木村の姿が明らかになり、…


脚本が良く出来ていて、入り組んだ話をうまく運んでおり、
複線も細かいところまで全部拾ってるし、役者も演技がうまいし魅力的。
後半、順々に出てくる種明かしに、そうか、そうだったのか、
んー、よくできてるなあ、と思うわけですが、
観終わって今ひとつ「良い!楽しかった!いい映画!」という満足感・爽快感が無いのは何故か。

一緒に観た人と映画館を出てからしばらく話したのですが、
このすっきりしない原因は、主人公の神野と木村がリスクを全く冒していないからなのではないかと。
ふたりは警察に完全に守られた状態で、最初から最後まで動いている(木村は勤め先を失うことになるけれど)。
保護された範囲から逸脱して、探偵・北沢を、もう少し別の形で救ってやるとか、
なにか違う動きがあってもよかったんではないか。
ただでさえ入り組んでいる脚本の構成上、更にそれをするのは難しいとは思うけれど、
なにかを伝えるための物語としては必要な要素だったと思う。

神野と木村は、初恋の人のためによく頑張った。格好良かった。
だけど探偵・北沢に対しては、確かに義理も思い入れも関係も無い。
彼らは、北沢には手を差し伸べることなく、北沢は踊らされっ放しで、そのまま物語は終わる。
それが「アフタースクール」、“大人の放課後”なのだとしたら、ちょっと悲しい話ではある。
まあ、実際、現実問題としては、そういうものなんだろうけど・・・
でも私は、映画は現実を見せるためのものだとは思わないので、
理想とか、そうだったら素敵だと思える何かを提示してほしいと思う。
2008-06-16 08:37 | 映画 | Comment(0) | Trackback(0)
「パリ、恋人たちの2日間」
パリ、恋人たちの2日間」 
原題:2 DAYS IN PARIS
監督:ジュリー・デルピー 上映時間: 101分
出演:ジュリー・デルピー、アダム・ゴールドバーグ、ダニエル・ブリュールほか
製作年度: 2007年
上映時間: 101分

新宿ガーデンシネマにて鑑賞。


倦怠期のフランス人とアメリカ人のカップルが、彼女の故郷であるパリを訪れ、
大きなカルチャー・ギャップに直面するラブコメディー。
ジュリー・デルピーは本作で監督、脚本、音楽、編集、主演を担当。

フランス人の奔放な「こなれ感」を体現する
ジュリー・デルピーは言うまでも無くチャーミングだが、
ひげもじゃのユダヤ系アメリカ男役のアダム・ゴールドバーグも相当キュート。

「妖精だ」と名乗って登場するダニエル・ブリュール。
「グッバイ、レーニン!」の男の子だ。相変わらず可愛い。

ジュリー・デルピーのリアル両親が両親役で登場するが、
このふたりがとても「フランス人」で「60年代に青春を過ごした世代」で
キャラが濃くて強烈かつ魅力的だった。

細部まで皮肉とユーモアが散りばめられているけれど、
メッセージはとても真っ当で、良い映画だった。

人生の最期、死ぬ時になにを思うか。
仕事やお金のことじゃない。
「特に愛した女性のことを思うはずだ。」
そう、人は愛した人のことを思って死んでいく。
人と愛し合い、分かり合うことは、人生に大きく比重を占めている。

主人公のふたりは、2年も一緒に過ごしたけれど、向き合ってはいなかった。
愛するということは一緒にいることではない。
向き合って、違いを知って、それを乗り越えたり楽しむこと、分かり合おうとすること。
それが愛するということで、男女に限らず、そもそもの人と人との健全な付き合い方だろう。
2008-06-13 08:49 | 映画 | Comment(0) | Trackback(0)
「つぐない」
つぐない
原題: ATONEMENT
製作年度: 2007年
監督: ジョー・ライト
上映時間: 123分
出演: キーラ・ナイトレイ、ジェームズ・マカヴォイ他

テアトルタイムズスクエアにて鑑賞。

ブッカー賞作家イアン・マキューアンのベストセラー小説を、
『プライドと偏見』のジョー・ライト監督が映画化。
アカデミー賞(作曲賞)、ゴールデン・グローブ(作品賞)受賞。
物語は1935年の、戦火が忍び寄るイングランドから始まる。
幼く多感な妹の嘘によって引き裂かれた姉セシーリアとロビンの愛と、
嘘をついた罪の重さを背負って生きる妹ブライオニーの姿が描かれる。


いちど犯した罪を償うことの可能性・不可能性について、
償うという事そのものについて。
突き詰めて考えさせられる映画。
ぐいぐい泣かせに来るような演出は一切無いが、
登場人物たちに共振して、胸が強く締め付けられる。
ひとつの嘘が引き起こした事態の、なんと残酷なこと。
それでもその残酷な事態に立ち向かおうとする愛の強さ。
また、小説とは、創作とは、作家とは何か、ということまで
かなり真摯に語られており、ブライオニーのアイデンティティが
どこまでも深く逃げ場無く、贖罪と向かい合わせられている。
結局、ブライオニーの償いは「償い」たり得たのか、
そこは鑑賞者それぞれに委ねられている。
私個人としては、引き裂かれた恋人たちへのブライオニーからの「償い」
は、自己満足で、「償い」にも「親切」にもなり得ないものだと思う。
(確かブライオニーはkindnessという言葉を使っていた。)
この世には、取り返しのつかないことがある。

全編を通してダレず淀みなく、ぐいぐい惹き込まれる。
緻密に、ひとつひとつのシーンにきちんと目的があり、
物語と共に積み重ねられた仄めかしや示唆が
どんどん連鎖して、物語の更なる細部まで構築してゆく。
素晴らしい音楽に、ブライオニーのタイプライターのキイを打つ音が重なり
緊張感を高め、上映が終わってからも頭の中に響いているかのようだった。

映像もすごく美しい。
イギリスの上流階級のライフスタイルも豪華かつ渋く描かれていて
ビジュアル的にもワンシーン、ワンシーンが絵画のよう。
悲惨な戦闘地域でのシーンでさえ、時折夢のように美しいシーンが挟まれる。

キーラ・ナイトレイは大好きな女優さんだが、今回も本当に素敵だった。
『プライドと偏見』より更に女性っぽく、野性と気品が同居している。
優雅でクラシックな発音で紡がれる、早口の台詞が気持ち良い。
薄い胸で着こなすイブニング・ドレス、水着、ナース服…

また、各世代ごとのブライオニーがどれも一貫して
頑固そうで、白っぽくて、なんとも言えない、ムーミン谷の住人めいて
独特の雰囲気を繋げていて凄かった。

原作がそもそも傑作と名高い作品だが、映像化した意味は間違いなくあったと言えるだろう。


贖罪贖罪
(2003/04)
イアン マキューアン

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原作。ブッカー賞最終候補。全米批評家協会賞受賞。
2008-05-21 08:03 | 映画 | Comment(0) | Trackback(0)
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